2004年02月15日 (日曜日)

青色発光ダイオード判決と研究者・技術者の起業

私も青色発光ダイオード判決に疑問を持つ一人だ。

実際、2月3日の記者会見の冒頭を使って私の見解を述べさせていただいたのだが、御手洗さんが私に近い見解を書いているので、私も再度ここに述べさせてもらうこととする。

今回の判決は「Low Risk, High Return」の肯定だと思う。このようなことが常識化されるのであれば、研究者や技術者は誰も会社を出てハイリスクの起業などしようとは思わないだろう。うまくいかなくてもずっと安定的に給料はもらい続けられ、もしヒットすれば個人の功績として起業した以上にも匹敵する莫大なリターンが得られるということだ。

確かに中村氏が受け取ったという2万円という報奨はあまりにも低額だ。私も技術者として、従来の平均的な企業での研究者・技術者の評価は低すぎたと思う。私自身、査定に納得いかずボーナスをつき返したこともある。それでも、今回の判決は逆に振れすぎていて、疑問を持たざるを得ない。中村氏をフロリダ州立大学に1年間留学させ、氏の研究のためにMOCVD装置を購入などで3億円以上を投資したにもかかわらず、なぜ原告は「被告会社の貢献度はないに等しい」と言い切ることができ、判決はそれを追認するのか? 売上げを上げるには、発明以外にも、資金調達、製品化、営業活動、サポートなどが必要だ。そして判決で言う会社の得る利益の50%とは何を根拠に数字を算定しているのか? 判決文を読む限りにおいては、特許発明の貢献度50%という数字がそのまま見込利益の50%という計算になっているようだが、これは短絡的に過ぎるのではないか。

いずれにしても、私が危惧するのは、このような特殊と言わざるをえない判例が常識化することで、研究者・技術者のスピンアウトのモティベーションが下がることだ。以前のXMLコンソーシアムの講演でJoiが言ってたけれども、日本の特質に「Low Risk, High Return」のグループの存在があって、これがベンチャーが少ない背景の一つになっていると。

今回の判決は、日本の多くの技術者、経営者に知的財産における個人と会社の立場を考えさせる良いきっかけになったのは確かだ。これによって新たな個人と会社との信頼関係、雇用関係、企業選択基準などが醸成されるのであれば良いのだが、短絡的にこの判例をして常識ととらえるようなことになれば、優秀な研究者・技術者によるスピンアウトにはネガティブに働くのではないか。それが今回の判決に関して私の危惧することである。

[2004/03/04 追記] Joiの講演の関連部分の要約をエントリとしてアップした。

Posted by Pina Hirano at 2004年02月15日 11:55 | トラックバック はてなブックマーク - 青色発光ダイオード判決と研究者・技術者の起業 このエントリーを含むはてなブックマーク
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