2005年01月16日 (日曜日)

残念なこと - 青色発光ダイオード(LED)訴訟和解

いよいよ青色発光ダイオード(LED)訴訟が和解となった。結果は大きな注目を集めているが、残念なことが3つある。

第一に、今回のマスコミ報道の不正確さである。

(私の見聞きした限り)マスコミ報道では、青色発光ダイオードが中村氏の特許のみで実現されたものではないことには触れていない。青色発光ダイオードが「世紀の大発明」というのはその通りだが、中村氏の特許以外に必要な発明があったという事実に触れていない。中村氏が全てを発明したという論調である。また、ある報道番組では、「中村氏の貢献は5%で残りの95%は会社ということ」と言っていたが、妥当かどうかは別として単に中村氏の貢献度が5%と言っているだけだ。この問題は大切な問題であるがゆえに間違った情報をばら撒くことで不要な誤解を助長することにもなる。

第二に、中村氏の対応である。

今回の裁判は、特許法の改正や他の裁判への影響など、警鐘を鳴らし世の中を変えた画期的な裁判だと考えている。その意味でも、中村氏の発明だけでなく提訴という行動にもずっと敬意を持っている。技術者の地位向上、発明の対価を得られるようにという点に関して中村氏の行動によって世の中が大きく変わった。その意味で、私は弁護団が出した声明には納得ができる。しかし、中村氏は「まったく納得できない」「怒り心頭」だと言う。そして、「日本の司法は腐っている」「理系の人はアメリカに行ったほうがいい」と言う。最初はまたマスコミがほんの一部のエキセントリックな部分だけを取り出したのではないかと思っていたが、いろいろな情報を総合しても一環したトーンだったようだ。

中村裁判の目的は、「発明補償金をご褒美の額から発明の譲渡対価の額へ変えたい。それによって、技術者・研究者の眼の色を変えさせたい。眼の色が変わった技術者が富を生む発明をし、産業が振興され、日本を豊かにしたい。」ということだった(弁護団の東京永和法律事務所資料より引用)。そして中村氏は、行動し、実際に日本の特許法にも日立判決や味の素判決といった判例にも影響を与えてきた。つまり「変えてきた」のだ。本当に書いてあることが目的であり、氏が言うようにお金が目的ではないのなら、その目的に対しては大きな前進を見たわけだ。代理人である弁護団の声明での「額の点で原審判決に及ばなかったとはいえ、本質的には画期的勝訴です。」と中村氏の言う「100%敗訴」。なぜここまでかけ離れるのか?また、どうしても納得いかないのであれば、たとえ1%の望みもないと言われようとも和解しない道もあったはずだ。表に出ていない話でもあるのだろうか? 知りうる限りの情報では今回の対応には違和感を覚えざるを得ない。

数日前に、あるメーカーの研究所に勤務する知人(彼自身も会社の方針でかなりの特許を出願している)と話したときに、「青色発光ダイオードの和解の件どう思う?」と聞いたら、「すごい功績だと思うが、僕は彼のようにはなりたくない。」と言った。中村氏には、研究者のスターであり「目指す人」になってもらいたいのであるが。大変残念なことだ。

第三に、和解であるがゆえの情報の不足だ。

特に金額算定のベースとなるて認定利益がなぜ地裁判決の1/10になったのかが不明である点。実は、今回の和解金額は私の予想よりかなり少なかった。これまでのエントリで述べてきた理由から、貢献度は下方調整がなされると思っていたのだが、本特許による会社の想定利益が地裁判決の1,200億円から120億円になっているのは意外だった。私自身、金額について「どうあるべきだ」ということを論じる立場にないが、なぜ変わったのか理由を知りたい。これは、貢献度と同じく今後の特許の「相当対価」の歳出の重要な指標となるはずだから。和解であるがゆえに十分な内容が公開されないのは残念なことだ。

いずれにしても、これだけ多くの影響と効果を残し、高い評価をされてしかるべきの中村氏の行動=青色発光ダイオード裁判が、後味の悪い部分を残して終わることが残念だ。

[追記:2005/01/17] 第三の点に関して、東京高裁の資料から、6億円の根拠は一部マスコミで報道された「120億円×5%」でないことがわかった。興味のある方は、リンク先の「別表計算表」を参照されたし。実施料率(ロイヤリティ)を7~10%として平成14年までを年毎に計算し、平成15年以降(クロスライセンス契約後)を9年間の予測として計算して合計してある。しかし仮にこの考えを是としたとしても、平成14年単年での金額は約1.25億円、平成15年以降9年間の合計金額が2.5億円というのは無理があるのではないだろうか?

Posted by Pina Hirano at 2005年01月16日 02:23 | トラックバック
Comments

こんにちは はじめまして。検索サイトから飛んできて読ませていただきました。この裁判に関して疑問が多くて同じように感じる方がいらっしゃったのでメールしました。もちろん私の意見が全て正しいとは思っていませんが。あえて返信は不要です。下記は私が他のBBSに書いたものです。

たしかに発明したことはすごいし立派です。でも俺この人が自分で書いた本を昔読んだけど現在のTVとかでの発言は「頭おかしいんじゃないの?」と思う部分も多い。
会社辞めてアメリカに行ってからごちゃごちゃ言うなよ! 会社のお金で開発したんだろ! 何年も何億も会社の金を使って会社の命令を無視して利益にならない開発してて結果的に開発できたからよかったけど。
会社の言い分、彼の会社員時代の行動をほとんど報道しないメディアもおかしい。
たとえば事務職の人たちなんかどうなるんだよ? 開発部門の人たちだけが特許の特権を得るのは会社としては不公平だよ。
みんなが努力して利益、損失なりを分かち合うのが会社じゃないんでしょうか?
なんかね 育ててもらった親に対して「自分が成功したから」って家を出て後から文句を言っているようで悲しいですね。
正直言って中村さんに幻滅しましたね。

とかくいう私は一人で工業系の自営業です。新しい製品開発に対して成功するかどうかの為の千円の道具を買うのも必死ですよ。

Posted by: みやっち at 2005年01月17日 13:32

ごめんなさい「在職中」に裁判をおこしたんですね。「弁護団が出した声明文」を読んで初めて知りました。でも中村氏のあの言い方「弁護士の意見に従って和解した・・・」とか「○○に対してはまったく納得していない・・・」とか和解したのにあの言い方は子供みたいでいさぎ悪いですね、かっこわるい。

Posted by: みやっち at 2005年01月17日 13:52

TB頂き、どうも。
訴訟和解の分析、興味深く読ませていただきました。
>(私の見聞きした限り)マスコミ報道では、青色発光ダイオードが中村氏の特許のみで実現されたものではないことには触れていない。

これ、同感です。自分もずっと気になっていた事です。自分の地元(徳島です)でも話題になっています。
中村氏は研究で徳島大学にかなりお世話になっています。一連の中村氏の発言は、氏の性格的なものが多分にあるようですが、
そういう発言に心を痛めている関係者も居る事をわかって欲しいものですね。

Posted by: Kaz. at 2005年01月18日 03:15
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